5.3 PAH(多環芳香族炭化水素)
5.3.1 PAHの生成機序
PAH(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons)は、脂肪やタンパク質が不完全燃焼する際(300〜600℃)に生成し、煙として肉表面に付着する。炭火焼きでは肉から滴り落ちた脂肪が炭に触れて燃焼・熱分解し、煙がベンゾ[a]ピレン等のPAHを含んで肉に付着する経路が主要な汚染経路となる。
主要なPAH生成反応(ベンゾ[a]ピレン生成の概略):
脂肪酸(C18:0等)の高温熱分解
↓ 500〜600℃の燃焼不完全条件
↓ アセチレン・C2H2ラジカルの生成と縮合
↓ PAH核の形成(フルオレン→ピレン→クリセン→ベンゾ[a]ピレン)
ベンゾ[a]ピレン(BaP、IARC Group 1:ヒトへの発がん性が確実)
5.3.2 焼肉とPAHの実際的なリスク
EU食品安全機関(EFSA)によると、炭火焼き肉100gあたりのBaP含量は以下の条件によって大きく変化する:
| 調理条件 | BaP含量(目安) |
|---|---|
| ガスグリル・直火なし | < 0.1 μg/100g |
| 炭火焼き・脂あまり落ちない | 0.5〜2 μg/100g |
| 炭火焼き・脂多く落ちて炎上 | 5〜20 μg/100g |
| 直火炎上・表面真っ黒 | > 20 μg/100g |
5.3.3 HCAとアクリルアミドの比較
| 特性 | HCA | アクリルアミド |
|---|---|---|
| 主な食品 | 加熱肉・魚の焦げ | フライドポテト・ビスケット・コーヒー |
| 生成前駆体 | アミノ酸+クレアチン+糖 | アスパラギン+糖(160℃以上) |
| IARC分類 | Group 2A(PhIP等) | Group 2A |
| 主な生成温度 | 150〜300℃ | 120〜180℃(油脂食品) |
| 低減策 | 焦がさない・ハーブマリネ | 低温・短時間調理 |