第3章:基本の切り方

3.1 押し切り(プッシュカット)

刃を前方向(押す方向)に動かしながら切る技法。

適した素材: 柔らかい肉(薄切りロース、表面に筋のない部位)

手順:
1. 刃先を素材の端に当て、刃の根元側(ヒール)から押し出すように切り込む
2. 刃を前方に押しながら、同時に下方向に力を加える
3. 切り終わりは刃先(ティップ)で抜ける

注意: 力に頼ると組織が潰れる。鋭い刃で行うのが前提。


3.2 引き切り(プルカット)

刃を後方向(引く方向)に動かしながら切る技法。焼肉店での薄切りの主流技術。

適した素材: 薄切り全般(筋引きによる大ブロックスライス)

手順:
1. 刃の前部(ティップ)を素材の遠端に当てる
2. 刃全体を後方向に引きながら、垂直下方向に力を加える
3. 一回の引き動作でスライスを完了させる(「一刀入魂」)

職人の原則: 「引き切りは一度で決める」。同じ場所を何度も往復すると断面が鋸目状になり、食感・美観が損なわれる。一度の引き動作で切り抜けることが薄切りの真髄。


3.3 直角カット(クロスカット)

繊維方向に対して90°(直角)で切る技法。

目的: 長い筋繊維を短く切断 → 咀嚼を容易にする
適した部位: タン(縦方向の繊維を断つ)、ハラミの特定カット


3.4 バイアスカット(斜め切り)

繊維方向に対して30〜60°の角度で切る技法。

目的:
1. 断面積を増やし、焼き色のつく面積を拡大(メイラード反応の促進)
2. 繊維を程よい長さで切断(直角より若干長い食感)
3. 肉の展開面積が増えて、見た目も良くなる

適した部位: ハラミ、サガリ、外内横隔膜


3.5 スライス(薄切り)

均一な厚さで連続的にスライスする技法。

一般的な厚さの基準:

厚さ 部位 食感の特徴
1〜2mm 霜降り高級和牛(ロース・サーロイン) とろける食感、超短時間焼き
3〜4mm 標準ロース・カルビ 一般的な焼肉の切り厚
5〜8mm タン中・厚切りロース 食感を楽しむ厚切りスタイル
10〜15mm 厚切りタン、特上カルビ 肉の旨味と食感を最大限に