焼肉大学 — 上級必修科目 | 4単位 | 後期開講
単独表示焼肉大学 — 上級必修科目 | 4単位 | 後期開講
「焼肉において、火は調理道具ではなく共演者である。肉が語りかけてくるのを聞き、適切なタイミングで応えること——これが焼き師の本質である。」
— 焼肉大学 焼き道場 免許皆伝条件より
科目概要
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本科目は焼肉大学の上級科目であり、YU-103(炭火科学)・YU-104(包丁・切り技術)・YU-101(牛の解剖学)・YU-102(肉の科学)の知識を統合し、実践的な焼き技術に昇華させる。「なんとなく焼く」から「科学的根拠に基づいて焼く」への転換を果たし、部位ごとの個性に応じた最適な火の入れ方を体得することが目標である。
学習到達目標:
1. 「火を読む」感覚を科学的に説明できる
2. 主要部位(タン・ハラミ・ロース・カルビ・ホルモン)それぞれの最適焼き手順を実践できる
3. 霜降り和牛の繊細な焼き方を理解し、実施できる
4. 季節・環境変化に応じた炭管理調整ができる
5. 顧客への焼き方説明と過加熱防止のアドバイスができる
第1章:焼き方の哲学
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1.1 「火を読む」とは何か
「火を読む(ひをよむ)」という表現は、焼肉・炭火料理の世界で古くから使われる職人的概念である。しかし、これを「勘」や「経験のみ」に委ねることは正しくない。焼肉大学では「火を読む」を次のように科学的に再定義する:
「火を読む」の科学的定義:
火床の状態・肉の変化・時間・温度・環境条件のリアルタイム情報を、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の5感で同時に収集し、脳内で統合処理して最適な行動(返す・移動・取り出す)を選択する知覚・判断プロセス。
1.2 5感を使った焼き方判断
視覚(最重要)
| 観察対象 | 状態の変化 | 判断内容 |
|---|---|---|
| 肉の色 | 赤→ピンク→グレー(外側から中心へ) | 火通りの進行度 |
| 肉の断面 | 汁が白濁して染み出してくる | 80°C以上に達した証拠(取り出しサイン) |
| 脂の溶け具合 | 霜降り脂が半透明に変化 | 和牛ロースのベストタイミング |
| 表面の収縮 | 肉が縮む | タンパク質変性進行(温度上昇中) |
| 焼き色(褐変) | メイラード反応が表面に出現 | 美味しさのシグナル、即返しのサイン |
聴覚
| 音 | 状態 |
|---|---|
| 「ジュー」という安定音 | 表面に十分な熱が当たっている、正常 |
| 「バチバチ」という爆発音 | 脂が炭に落ちて炎上しているサイン |
| 音が静かになる | 表面の水分が蒸発し切った(次の変化段階へ) |
嗅覚
| 香り | 意味 |
|---|---|
| 香ばしいメイラード香 | 表面の焼き色がついている、良い状態 |
| 脂の甘い香り(和牛特有) | 脂融解が始まっている |
| 焦げ臭い | 過加熱・炎上による炭化が始まっている |
| 生肉の鉄臭さ | まだ加熱不十分 |
触覚(プロ技)
| 触り方 | 判断 |
|---|---|
| 箸で軽く押す | 弾力がある→まだ半生、全く弾力ない→焼き過ぎ、わずかに沈む感触→適度 |
| 肉の縁を確認 | 縁がグレーに変わり始めたら返しのタイミング |
1.3 肉と対話するという意味
焼肉は一方向の加熱行為ではない。肉は熱に反応して刻々と変化し、その変化がシグナルを発している。
「肉との対話」の5つの局面:
- 予熱(火床確認):肉を置く前に炭の状態を確認し、適切な火力帯に肉を置く場所を決める
- 接触(置く):肉を網に置いた瞬間の音・香りで火力の適切さを判断
- 変化の読み(焼き中):肉の色・形の変化を観察し続ける
- 決断(返す):適切なタイミングを見極めて返す
- 仕上げ(取り出す):焼き加減のピークを逃さず取り出す
焼肉大学の格言: 「焼き師は時計を見ない。肉を見る。」時間は参考指標に過ぎず、真の判断基準は常に肉自身の変化にある。
第2章:タン完全ガイド
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2.1 タンの部位区分と特性の復習
| 部位 | タンもと(Root) | タン中(Middle) | タン先(Tip) |
|---|---|---|---|
| 位置 | 舌の付け根 | 舌の中央部 | 舌の先端 |
| 筋繊維密度 | 疎(太い束) | 中程度 | 密(細かい束) |
| 脂含量 | 多い | 中程度 | 少ない |
| コラーゲン量 | 多い | 中程度 | 多い(先端部) |
| 推奨用途 | 厚切り焼肉 | 薄切り〜厚切り | 薄切り・煮込み |
2.2 タンもとの完全焼き手順
目標: 外はカリッと香ばしく、内部はジューシーで弾力のある食感
切り厚: 8〜12mm(厚切り)
目標内部温度: 68〜72°C(中心部)
焼き手順
Step 1 — 火力確認(炭の状態)
備長炭なら表面に白灰が見え始めた状態(850〜900°C)が理想。この強火が必要な理由:タンもとの厚みと脂含量を考えると、高火力で短時間に表面をシールしてから内部を仕上げる「高温短時間焼き」が最適。
Step 2 — 接触と初期加熱(片面・1分30秒〜2分)
- 網の中央〜やや高温側に置く
- 置いた直後に「ジュー」という力強い音が聞こえれば適正火力
- 動かさない。接触面のメイラード反応(表面褐変)を邪魔しない
- 判断:端の色が1〜2mm程度グレーに変わり始めたら返しのタイミング近い
Step 3 — 返し(タイミングの見極め)
「返しのサイン三条件」:
1. 端が1/3程度グレーに変わっている
2. 表面に肉汁(白濁した液体)がにじみ出てきた
3. 肉の縁が収縮して形が整ってきた
Step 4 — 第2面加熱(1分〜1分30秒)
第2面は第1面より短時間。第1面の余熱が中心部に伝わっているため、加熱が速い。
Step 5 — 仕上げと確認
- 箸で軽く押して適度な弾力を確認(押して少し沈み込む感触)
- 断面が見える端部分がうっすらピンクなら理想的なミディアム
| 段階 | 内部温度 | 状態 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 生 | 〜40°C | 赤い、弾力強い | 生食リスクあり |
| レア | 50〜55°C | 赤〜ピンク、柔らかい | タンは推奨しない |
| ミディアム | 60〜68°C | ピンク色中心、弾力適度 | ◯ 好みで |
| ミディアムウェル | 68〜72°C | わずかにピンク、ジューシー | ◎ 推奨 |
| ウェルダン | 72〜80°C | 全体グレー | △ 普通 |
| 過加熱 | 80°C以上 | 硬い、パサつく | × 取り出し遅れ |
2.3 タン中(標準切り)の焼き手順
切り厚5〜7mm、やや薄いため火の通りが速い。
目標焼き時間: 片面45秒〜1分 × 両面
特記事項:
- タン中は薄いため「一瞬の判断」が必要。取り出しが1秒遅れると過加熱になりやすい
- 表面に塩(岩塩)がついている場合、塩がジリジリと乾燥してきたら返しのサイン
- 両面焼いた後に縁をすっと立てて(竪焼き)10〜15秒で全体を温める技法も有効
第3章:ハラミ・サガリ完全ガイド
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3.1 外横隔膜 vs 内横隔膜:徹底比較
| 項目 | ハラミ(内横隔膜) | サガリ(外横隔膜) |
|---|---|---|
| 解剖学的名称 | 横隔膜腰椎脚部(Diaphragm crus) | 横隔膜肋骨脚部(Diaphragm costal) |
| 形状 | 厚く丸みのある塊状 | 細長いフラット状 |
| 筋繊維方向 | 長軸方向に明確に走る | 同様だが若干複雑 |
| 脂のサシ | 中程度(赤身が主体) | 少なめ(より赤身) |
| 食感 | 肉々しく、噛み応え | ハラミよりやや柔らかい |
| 旨味強度 | 非常に強い(ミオグロビン豊富) | 強い |
| 1頭からの取れ量 | 約2〜3kg | 約500g〜1kg |
3.2 繊維方向の確認方法(実践)
ブロック状のハラミを使用する場合の繊維方向確認:
- 視覚確認:ブロックの表面に走るスジの方向を観察。繊維は必ず長軸方向に走っている
- 触覚確認:指で長軸方向に撫でるとなめらか、短軸方向に撫でるとわずかな抵抗(繊維の凸凹)を感じる
- 切り確認:端を少し切って断面を観察。繊維が点状に見えれば繊維に対して直角に切れている(正解)
3.3 バイアスカットと焼き方の完全解説
バイアスカットで焼くべき理由(科学的根拠)
理由①:断面積の増大
直角カットの断面積 = W × H
バイアスカット(45°)の断面積 = W × H / sin(45°) ≈ W × H × 1.41
つまり45°バイアスカットで断面積が約41%増加。これによりメイラード反応の起きる表面積が増大し、香ばしさが増す。
理由②:繊維長さの最適化
直角カットの繊維最大長さ = 切り厚(例:5mm)
45°バイアスカットの繊維最大長さ = 切り厚 / cos(45°) ≈ 7mm
直角より若干長い繊維長さが、適度な「噛み応え」と「肉の存在感」を生む。タンのような「すっと切れる食感」とは異なる「肉々しい咀嚼感」がハラミの魅力。
3.4 ハラミの最適焼き手順
切り厚: 5〜7mm、バイアスカット45〜60°
目標内部温度: 63〜68°C(ミディアム)
火力: 中高火力(炭が赤く安定した状態、備長炭なら700〜800°C帯)
詳細手順
Step 1:置く場所の選定
ハラミは赤身が多く脂が少ないため、過加熱を防ぐため中火帯(炭の端側)に置く。強火帯は表面が炭化しやすい。
Step 2:初期加熱(片面1分30秒〜2分)
- 置いてから動かさない
- 表面に規則正しい褐変が始まるのを確認
- 端のグレー化を確認
Step 3:返しのサイン(ハラミ特有)
「ハラミの涙」:適正な加熱が進むと、バイアスカットの断面に沿って肉汁が玉状に盛り上がってくる。これが最重要の返しのサイン。
Step 4:第2面(45秒〜1分)
第2面はさらに短く。ハラミは赤身の密な筋肉で熱を保持しやすい。
Step 5:仕上げ
取り出し後、10〜15秒置いてから食べる(レスティング)。内部の熱が均等に分散し、肉汁が落ち着く。
ハラミの禁忌: 過加熱は致命的。ハラミのミオグロビン豊富な赤身肉は、80°C以上になると急速に硬化・水分喪失が起き、パサパサの不味い肉に変化する。「もう少し焼こう」が最大の敵。
第4章:ロース・サーロイン完全ガイド
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4.1 霜降り和牛の焼き方哲学
霜降り和牛(特にA4〜A5ランク)の焼き方は、他のどの部位とも根本的に異なる哲学を必要とする。
通常肉の焼き哲学:「外を焼いて内を守る(シール理論)」— 高温で表面を素早く固め、内部の水分を保持する
霜降り和牛の焼き哲学:「脂を融かしながら肉を温める」— 脂の融点(25〜30°C)を超えない温度で丁寧に扱い、脂が肉繊維間を流れながら旨味を伝える状態を作る
牛脂の融点の科学: 和牛の脂肪酸組成は欧米産牛と大きく異なる。オレイン酸(C18:1、融点13°C)の含有率が和牛脂肪中で40〜50%に達し、このためA5和牛の脂は体温(36°C)でほぼ完全に液状化する。「口の中でとろける」のは比喩ではなく、物理化学的事実。
4.2 脂融点25〜30°Cを活かす焼き技術
「超短時間焼き」のプロセス(A5霜降りサーロイン、2〜3mm薄切り)
Step 1:網の予熱確認
網全体が均一に熱くなっていることを確認。局所的な冷えた部位に置くと均一に焼けない。
Step 2:肉の置き方
- 冷蔵庫から出したての肉(1〜4°C)をそのまま使用
- 肉を無造作に置かず、霜降りの向きを統一して並べる(美観と均一加熱のため)
Step 3:超短時間焼き(片面10〜20秒)
- 薄切り霜降りの場合、10〜20秒で取り出す
- 表面に軽い褐変が出始めたら即座に返す
- 「焼けてる?」と感じた瞬間が遅い
Step 4:返して仕上げ(5〜10秒)
第2面はさらに短く。第1面の余熱で内部はほぼ仕上がっている。
Step 5:最終確認
- 脂が半透明に変わっていれば完成
- 完全に白濁したら過加熱(脂の酸化が始まる)
| 焼き加減 | 脂の状態 | 食感 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 生 | 白く固い | 脂が固形、口の中で溶けない | × 未加熱 |
| 理想 | 半透明、じわっと溶けている | 口の中でとろける | ◎ 最高 |
| 過加熱 | 白濁・縮む・焦げる | 脂が酸化、苦み | × 損失 |
4.3 炙り技法(高級店の技術)
高級焼肉店では、網焼きではなくガスバーナーまたは炭火を使った「炙り(あぶり)」でサーロインを提供することがある。
炙りの特徴:
- 肉の内部温度を上げすぎずに表面だけを加熱
- 表面の香ばしさと内部のとろける食感を両立
- 視覚的な演出効果
第5章:カルビ完全ガイド
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5.1 上カルビの焼き方
特性: 脂豊富、肉汁多い、炎上リスク高
切り厚: 5〜8mm
最重要課題:炎上対策
カルビは脂含量が高く、炭の上に脂が大量に滴下すると炎上(フレームアップ)が発生する。炎上は:
- PAH(発がん性多環芳香族炭化水素)を急増させる
- 表面を焦がして苦みを生む
- 肉の旨味を損なう
炎上防止のための3原則
- 高めの網位置:炭床から12〜15cmの高い位置に置く(炎が届きにくい)
- 脂受け皿:炭床に金属製の脂受けを置き、滴下した脂を受ける
- 適時移動:脂が滴下し始めたら、箸で素早く炎のない場所に移動させる
焼き手順
Step 1: 中〜弱火帯(炭の端)に置く
Step 2: 片面2〜3分、脂が溶け出して表面に光沢が出るのを確認
Step 3: 炎上したら即座に別の場所に移す、または網を持ち上げて炎を一時的に遮断
Step 4: 返して1〜2分、脂が滴下する量が落ち着く
Step 5: 取り出し前に強火帯に短時間(10〜15秒)移して焦がし香を付ける(任意)
5.2 三角カルビの特性と焼き方
三角カルビ(Tri-Tip adjacent / Short Plate)は通常のカルビより筋肉の密度が高く、脂と赤身のバランスが優れる「焼肉の最高傑作」とも称される部位。
- 脂と赤身の比率:約4:6〜5:5、バランスが良い
- 切り方:繊維方向に対して30〜45°のバイアスカット
- 焼き方:中火で丁寧に。上カルビほど脂は多くないが炎上には注意
- 食べどき:内部が65〜70°C、赤身部分にほんのりピンクが残る状態
5.3 中落ちカルビの扱い
中落ちカルビは骨間から削ぎ取った不規則な形状の肉。形状を活かした焼き方が必要。
- 形状が不均一なため、厚い部分と薄い部分が混在する
- 焼き方:薄い部分を弱火帯、厚い部分を中火帯に置く(傾けた配置)
- 取り出し:薄い部分が先に焼けるため、個別に取り出す
第6章:ホルモン焼きガイド
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6.1 ホルモン焼きの基本原則
ホルモンは一般の赤身肉と根本的に異なる構造を持つ。最大の特徴は:
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 高コラーゲン含量 | 40〜60°Cでゼラチン化 → プルプル食感の源泉 |
| 高脂肪含量(小腸・大腸) | 炎上リスク最大 |
| 独特の食感(コリコリ・プルプル) | 「コリコリ感」= エラスチン繊維の弾性 |
| 臭み成分(アミン類等) | 下処理で大幅に軽減可能 |
6.2 テッチャン(直腸)の焼き方
特性: 脂多め、コリコリとした食感が魅力
目標: 外はカリカリ、内は脂がジューシーに溶けたとろとろ状態
焼き手順:
Step 1:下処理確認
十分に洗浄・塩揉みされた清潔なテッチャンか確認。
Step 2:強火帯に置く
テッチャンは脂を多く含むため、強火で一気に外側を焼く方針。炭が赤く安定している場所に置く。
Step 3:初期加熱(片面1分〜1分30秒)
動かさない。「バチバチ」という音は脂が落ちているサイン——炎上注意。
Step 4:炎上管理
脂の量が多いため炎上しやすい。炎が上がったら:
① まず肉を炎のない場所に移す
② 炎が収まった後に元の場所または別の場所に戻す
Step 5:返しのサイン
テッチャンの特徴:脂側が向かって下向きの場合、脂が溶けて縮み、形が変わってくる。縁がカリカリに焼けてきたら返す。
Step 6:第2面(1分)とコリコリ感の確保
「コリコリ感」はエラスチン繊維由来。長時間加熱するとコラーゲンが完全にゼラチン化してプルプルになる。コリコリ感を残したい場合は加熱を短めに。
6.3 シマチョウ(大腸)の焼き方
特性: シマ模様の豊富な脂と歯ごたえのある皮のコントラスト
焼き方の要点:
- シマチョウは脂面(内側の白い脂)を最初に下にして置く
- 脂が溶けてキャラメリゼされた「炙り脂」の香ばしさを作る
- 片面1分30秒〜2分 × 2回、計3〜4分が標準
6.4 ミノ(第一胃)の焼き方
特性: 牛の4つの胃の中で最も硬い部位、独特のコリコリ食感
特殊処理: ミノは表面に格子状の切れ目(なかみ/飾り切り)を入れることで:
1. 熱の伝わりを均一化
2. 表面積増加でメイラード反応促進
3. タレが絡みやすくなる
4. 視覚的な美しさ
焼き手順:
切れ目を入れた面を下にまず強火で置く → 1〜2分で格子の切れ目が広がって美しい焼き目ができる → 返して1分
コリコリ感の原理: エラスチン繊維は加熱しても溶けないため、ミノのコリコリ食感は長時間焼いても保たれる(ただし過加熱でゴムのような硬さになる)。
6.5 マルチョウ(小腸)の焼き方
特性: 腸間膜の脂を小腸が包んだ構造、プルプルとろとろ食感
特記: マルチョウは脂含量が最も高いホルモンの一つ。炎上リスク最大級。
焼き手順:
- 必ず炭の端(弱〜中火帯)に置く
- ゆっくり時間をかけて内部の脂を溶かす(急加熱すると外が焦げて内は冷たいまま)
- 片面2〜3分の低温長時間加熱
- 全体が艶々として膨らんできたら食べ頃
第7章:季節・環境による調整
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7.1 夏の炭管理
| 課題 | 理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 炭の過熱 | 気温高く冷却が遅い | 送風を絞る、炭量を減らす |
| 換気量不足 | 冷房で外気導入を絞りがち | 排気量を増やし補給空気を適切に確保 |
| 脂の融解速度増加 | 気温高いと脂がすでに軟らかい | カット直後に冷蔵庫から出す |
| 肉の温度上昇速度増加 | 冷蔵からの温度差が小さい | 取り出しタイミングを若干早める |
7.2 冬の炭管理と予熱
| 課題 | 理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 炭の冷却が速い | 外気温が低く、コンロが冷える | 早めの着火・十分な予熱(通常より10〜15分長く) |
| 肉が冷たい | 冷蔵温度が肉に長く影響 | 切った肉を調理前10〜15分程度室温に置く |
| 炭の消耗が速い | 熱損失が大きい | 炭の補充頻度を上げる |
| 七輪の冷え | 珪藻土七輪は予熱に時間要 | 冬は30分前から予熱開始 |
7.3 湿度と焼き加減の関係
| 湿度条件 | 影響 | 調整 |
|---|---|---|
| 高湿度(梅雨・夏) | 肉表面の水分蒸発が遅い→褐変反応遅延 | やや高火力・長時間で焼き色を補う |
| 低湿度(冬・乾燥) | 肉表面が乾燥しやすい→焦げやすい | 火力を若干抑える |
| 高湿度 | 炭に湿気が入ると火力低下 | 炭の保管は密封容器に |
第8章:お客様への説明技術
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8.1 焼き方を説明する「言葉の設計」
焼肉店において、お客様への適切な焼き方案内は:
1. 過加熱による肉質低下の防止(クレーム予防)
2. 食体験の向上(リピート率向上)
3. 食の安全確保(食中毒予防)
という3つの目標を同時に達成する重要な「接客スキル」である。
8.2 部位別の説明例文
高級和牛サーロイン
「こちらの黒毛和牛サーロインは、さっと10〜15秒ほど片面を焼いて、脂がじわっと透き通ってきたらお召し上がりください。火を入れすぎますと脂の風味が失われてしまいますので、早めにお口に運ぶのがコツです。」
タン
「タンは繊維方向を断ち切って切っていますので、しっかり火を通していただいても柔らかくお召し上がりいただけます。片面1〜2分、全体がグレー色になったらちょうどです。」
ホルモン(テッチャン)
「テッチャンは脂がたっぷりですので、少し時間をかけて外側をカリカリに焼いてください。中はとろっとした食感になります。脂が落ちて炎が出る場合は、箸で端に移してください。私どもも随時お手伝いします。」
8.3 過加熱を防ぐアドバイスの5原則
- 事前説明:肉を置く前に最適な焼き方と取り出しタイミングを簡潔に説明する
- 視覚的サイン提示:「端がグレーになったら」「脂が透き通ったら」など、客自身が判断できる具体的なサインを伝える
- タイミングの声がけ:高級肉の場合は「そろそろ返し時です」「もう食べ頃です」とスタッフが積極的に声をかける
- 推奨焼き方の優先案内:「最もおすすめの食べ方は〜」と積極的に案内する(嫌な場合はお客様が断ればよい)
- 二度焼き防止:一度取り出した肉を再び網に戻すことへの自然な抑止(「こちらでお皿にお取りしますね」と先回り)
8.4 クレーム対応のガイドライン
よくあるクレームと対応方針
| クレーム内容 | 原因分析 | 対応 |
|---|---|---|
| 「肉が硬い」 | 過加熱 | 謝罪 + 同部位の新しい肉を提供(無料) + 今後の説明 |
| 「生肉が出た」 | 説明不足 or 本当に生の部分 | 状況確認、サーブのタイミングで下処理を説明。内部温度の問題なら食中毒対応に準ずる |
| 「煙くて臭い」 | 換気不足 or 炎上多発 | 換気システム確認 + 炭・脂の状態確認。席の変更提案 |
| 「焦げ臭い」 | 炎上 or 炭の変質 | 炭の状態確認、必要なら炭交換 |
| 「肉が少ない(縮んだ)」 | 過加熱による水分喪失 | 焼き方の説明 + 次回から適切な焼き加減をスタッフが補助 |
黄金ルール: クレームは「失敗」ではなく「教育の機会」。お客様のフィードバックが焼き師のスキルを磨く。クレームを恐れず、真摯に学ぶ姿勢が最高のプロフェッショナルを作る。
総括:部位別焼き方完全マスターのエッセンス
単独表示総括:部位別焼き方完全マスターのエッセンス
| 部位 | 最重要ポイント | 取り出しサイン |
|---|---|---|
| タンもと | 直角切り+強火短時間 | 端1/3グレー化+肉汁にじみ |
| タン中 | 薄いため「一瞬の判断」が命 | 塩が乾き始めた時 |
| ハラミ | 赤身の過加熱が致命的 | 「ハラミの涙」(肉汁の玉) |
| 霜降りサーロイン | 10〜20秒で取り出す哲学 | 脂が半透明化した瞬間 |
| カルビ | 炎上対策が最重要課題 | 全体に光沢、脂が収まった |
| ホルモン | コリコリvsプルプルの選択 | 縁のカリカリ感 |
| 季節管理 | 冬は予熱長め、夏は補充早め | 環境変化を感知する習慣 |
最終試験:模擬焼き実技審査
単独表示最終試験:模擬焼き実技審査
本科目の最終試験は以下の実技審査で行う:
- タンもとの厚切り焼き(採点:返しのタイミング、内部温度68〜72°C確認)
- A4サーロイン薄切り焼き(採点:脂の状態判断、10〜20秒焼きの精度)
- ハラミのバイアスカット焼き(採点:カット角度確認、「ハラミの涙」の認識)
- カルビの炎上対策焼き(採点:炎上時の対処速度、最終仕上げ品質)
- お客様への説明実演(採点:5原則の実践、クレーム対応シミュレーション)
全5項目でS〜D評価を実施。3項目以上でB以上を単位認定条件とする。
YU-201 部位別焼き方完全マスター | 焼肉大学 焼き道場学科 | 改訂第4版