Chapter 1: 原価計算の基本 {#chapter-1}

1.1 飲食業の原価構造

飲食業の収益構造は「FLコスト」を中心に分析する。FLコストとはFood Cost(食材原価)とLabor Cost(人件費)の合計であり、理想的にはFLコスト比率を売上の55-65%以内に抑えることが収益確保の目安とされる。

焼肉店の標準的なPL(損益計算書)構造:

科目 比率(売上対比) コメント
売上高 100%
食材原価(F) 30-35% 焼肉は高め(肉の単価が高い)
粗利益 65-70%
人件費(L) 25-30% 焼き師・ホール・調理補助
FL合計 55-65% 目標ゾーン
家賃・リース 8-12% 立地によって大きく異なる
光熱費 3-5% 炭・ガス・電気など焼肉は高め
消耗品・その他 3-5% 網・炭・衛生用品
広告宣伝費 1-3% SNS・グルメサイト掲載料
減価償却 2-4% 内装・設備
営業利益 10-15% 健全経営の目標

1.2 食材原価率の計算

食材原価率(Food Cost Percentage)は最も基本的な管理指標である。

食材原価率 = 食材原価 ÷ 売上高 × 100(%)

焼肉店における許容原価率(品質ゾーン別):

価格帯 客単価 目標原価率 根拠
大衆焼肉 2,000-3,500円 28-33% 回転率が高く、安価な部位が中心
中価格帯 3,500-6,000円 32-38% 和牛の比率が上がるため原価高め
高級焼肉 8,000円以上 38-45% A5和牛・希少部位。高客単価で維持
お任せコース 10,000円以上 40-48% プレミアム食材の比率が高い

重要な洞察: 原価率が高くても、客単価が高ければ絶対利益額(円)は大きい。原価率だけを見るのではなく、貢献利益額(円)で評価することが重要。

計算例:

カルビ盛り合わせ(5,000円): 原価2,000円 → 原価率40%、貢献利益3,000円
タン塩(1,500円): 原価350円 → 原価率23%、貢献利益1,150円

タン塩は原価率が良いが、貢献利益はカルビの方が2,000円以上多い

1.3 歩留まり計算と実質原価

食肉は購入時の重量と実際に使用できる重量(可食部)が異なる。この比率を歩留まり率(Yield Rate)という。

歩留まり率 = 可食部重量 ÷ 仕入れ重量 × 100(%)

実質(歩留まり後)の原価 = 仕入れ単価 ÷ 歩留まり率

主要部位の歩留まり率(参考値):

部位 仕入れ形態 歩留まり率 廃棄部分
牛タン(タン元まるごと) 1本単位 65-75% タン先・過剰脂肪・外皮
牛カルビ(骨つき) 骨付き 70-80% 骨・余分な脂肪
ロース芯(ホール) ブロック 80-88% 筋・外側脂肪
肩ロース ブロック 78-85% スジ・筋膜
テッチャン(生) Kg単位 85-90% 不要な腸間膜脂肪

歩留まりを考慮した仕入れ価格の計算例:

タン元まるごと: 仕入れ価格 4,000円/kg
歩留まり率: 70%

実質原価 = 4,000 ÷ 0.70 = 5,714円/kg(実際に使える1kgあたりのコスト)

タン塩1人前80g → 実質原価 = 5,714 × 0.08 = 457円

1.4 食材ロス計算

食材ロス率はROI(投資収益)に直接影響する。

食材ロス率 = ロス量 ÷ 使用量 × 100(%)

ロスの種類:

ロス種類 原因 対策
下処理ロス 歩留まりが低い処理技術 技術研修・標準化
廃棄ロス 期限切れ・変質 FIFO徹底・発注量最適化
提供ロス お客様の食べ残し 提供量の適正化
盗難・不正 スタッフによる持ち出し 在庫管理の厳格化
調理ミスロス 焦げ・調理失敗 技術向上・レシピ標準化

目標ロス率: 食肉は3-5%以内。5%を超える場合は管理に問題あり。